《Re:think “知ってる花”の、知らない横顔》vol.4 知らないチューリップの横顔を探す旅 ― 埼玉県深谷市・田尻華園を訪ねて Part 2
限られた期間に育てるということ
※この記事は後編です。
前編はこちらからご覧いただけます。
▶ パート1を読む

チューリップの出荷は3月いっぱいまで。
シーズンは決して長くありません。
同じ時期に植え付けをしても、育つスピードは品種によってまったく異なります。
土耕栽培では平均8週間。
水耕栽培では早いもので4週間。
水耕栽培では、日光・温度・水が重要です。
田尻華園では毎晩、新鮮な井戸水を継ぎ足し、オーバーフローさせながら循環させています。


「計算したことはないけど(一度で使う水の量は)プールの三分の一の量くらいにはなるかも」
さらりと話されましたが、そのスケールに驚きます。
チューリップの良し悪しは「球根半分、環境半分」。
育ててみて初めて、想定と違う色や姿になることもある。
だからこそ、親品種の特性まで理解し、予測しながら管理する必要があるのです。

温度管理、日光管理、水管理。
すべてを最適なタイミングで。
派手なテクニックではなく、徹底した管理。
そこに品質の差が生まれます。
水耕と土耕の違い
村田さんの例えが、とても印象的でした。
「水はすっと飲める。
でもトマトジュースは栄養があるけれど、少しざらっとして引っかかる。」
土耕は、栄養が豊富なぶんストレスもかかる。
そのストレスがあるからこそ、丈夫でがっちりした花になる。
水耕はストレスが少なく、素直にまっすぐ育つ。

どちらが良いという話ではない。
それぞれに良さがある。
花もまた、環境によって性格が変わるのです。
少しでも良い状態で届けるために
生産現場では、球根の外皮をむいて植え付けます。
発根しやすくするためです。
球根植物は蓄えた栄養で花を咲かせるため、翌年も同じ品質を保つのは難しく、再利用はしません。

さらに、長さを保つための工夫も。
球根の上で切らず、球根を砕き、中の茎の先端で切る。
少しでも長く、市場へ届けるための工夫です。


JAふかやでは、初回の水揚げ時にチューリップ専用の処理剤を使用します。
首の伸びや急激な開花、葉の黄変を抑えるため。
「チューリップはかわいいけれど扱いが難しい」
そう感じていた昔からの花屋にも、使ってほしい。
生産者さんの言葉からは、チューリップをもっと良い状態で家庭へ届けたいという熱意を感じました。
きれいな瞬間は、人それぞれ
「実際は蕾に少し色が入った時点で収穫してしまうけど、実際はその倍くらい大きくなるんですよ。色がしっかり入った蕾が綺麗だなと思いますよね。」
「あとは、チューリップのあのカーブ。私はあのカーブが好き。」
と村田さん。
田尻さんは、
「僕が思ったのは、マンゴーチャーム。マンゴーチャームがここ最近ずっと好きで。マンゴーチャームって生産者からしたら細い尖った角のような状態で出荷しなきゃいけないんですよ。それがすごい丸くなって、ちょっと先が割れたぐらいの感じが好きで。
でもマリリンも捨てがたいな〜!」
「マリリンいいのよねぇ〜。」と笑うお2人でした。
マンゴーチャーム:一重咲きのアプリコットカラーの品種。
マリリン:ユリ咲きのホワイトベースに赤のラインが入った品種。

さらに、変化の過程が好きだという声もあるそうです。
散り際のカサカサとした花びらが落ちる瞬間。
プロペラのように開いた姿。
ぐねぐねと伸びた姿。
生産者からすれば「えっ?」と思うような瞬間も、誰かにとっては最高の瞬間。
人それぞれの好きがある。それが、チューリップの面白さなのかもしれません。
チューリップのこれから
最近は若い世代が花を手に取る機会も増えています。
限られた短い期間に、多くの品種が一斉に出回るチューリップ。
だからこそ、旬を楽しんでほしい。
成長していく姿も含めて、花の魅力を感じてほしい。


質の良い花を育てる生産者さん。
そして、その魅力をお客様へ伝える花屋。
私たちの役割を、改めて考えさせられた深谷訪問でした。
まずは産地の背景から知りたい方はパート1へ。
チューリップの未来の話をもう一度振り返りたい方も、ぜひ読み返してみてください。
Feb 26, 2026
